ぜま一代記とは?
「ぜま一代記」は、真一が「虜人日記」をフィリピンの捕虜収容所で完成させる8年前の1938年に描かれた作品です。日本が太平洋戦争へ突入する前の時代に、愛犬のアイヌ犬ぜまとの青春時代を描いたものです。
当時、真一は26歳の若者でした。愛犬や友人達と共に日光に温泉旅行へ行ったり、趣味の絵を楽しんだりしていて、現代の若者とも共通するところもあります。
ただ、当時の真一は、後に戦地フィリピンでの地獄の生活は想像もしていなかった事でしょう。
1938年完成の「ぜま一代記」
「ぜま一代記」からの引用文
この「ぜま一代記」上下二冊は、永年生活を共にした「ぜま」が死んでから何となく淋しくてしかたがないので、ぜまの面影のうすれない内にと思い出のままに描いたもので、絵は昭和十三年八月頃から十二月頃迄の作で、文は昭和二十九年八月二十九日に書き加えたものである。
ぜまの事は色々な雑誌にも書いたが昭和二十六年九月朝倉書店発行の「愛犬手帖」に載せたのが最新の物である。
「ぜま」は今迄数多く飼った犬の内で第一の名犬で、私の青春時代はこの犬と共に暮らしてしまった様なもので大して悔いもない様だ。
今でも昔の犬友達に会うと「ぜま」の話が必ず出る。この犬は他人にも深い印象を残して居たものとみえる。人一代に一匹の名犬にめぐり会えればその人は「幸福な人だ」と云われているから自分も「ぜま」のお蔭で幸運に恵まれたわけだ。
この画帖は沼津から僅かばかりの荷物の内に混じって御殿場に疎開された為、戦禍をまのがれた物である。
昭和廿九年八月廿九日
浦和にて
小松真一
●横顔
ぜまの横顔は仲々良かった
愛犬ぜま
●バスケットのぜま
このバスケットに這入る事は山に連れて行ってもらへる事と決めて居たので、バスケットを見せると大よろこびにて自ら飛び込みぐるぐると廻って安定を得れば後はガサリともせず静かにして居る。電車にて二時間位の処まで、毎日曜ごとに出掛け、一日山野を遊び廻って、帰りは又バスケットに収まって無賃乗車の常習者となる。
バスケットの中のぜま
●田舎のバス
ぜまは誰が見ても可愛らしいので田舎のバスなら文句を云わずに乗せてくれる。満員バスへ犬を抱いて乗り込むのだから心臓も強いが当時は何んとなくのんびりして居た。
真一と愛犬ぜま
●ぜまと河童
●艶福家ぜま
●日本犬保存賞受賞
昭和八年十一月三日
第二回展にて日本犬保存会賞受賞
賞牌は安藤照氏作(渋谷ハチ公銅像作者)
日本犬保存会賞賞牌
真一(左)とぜま、日本犬保存会犬舎開場式
ぜま一代年譜
・昭和五年秋北海道日高國荷負村(ニオイムラ)アイヌ部落川上吉太郎方に産る
・昭和六年八月アイヌ犬調査の時荷負村にて初対面
・昭和七年十月川上吉太郎より送料共金拾円也で買取り
・昭和八年十一月三日日本犬保存會第二回展覧会に於いて日本犬保存会賞を受賞
・昭和十三年七月東京代々木山谷自宅にて大往生 享年九才